障子糊が如く

ネクロマンサー12

ネクロマンサー12

「最近までは、本当にどうしようもない喪失感に囚われて暮らしてきました。『死人返り』を施してもらえるものは、相当裕福な者か、時の権力者くらいですからね」

「お気持ちはわかります。それに『死霊使い』自体が極少数ですから」

「しかも、三年前の『浄化の日』で数え切れない程の人々が死んでしまいましたから……そう簡単には……」

主人の言葉に黙って頷くユート。

数少ない『死霊使い』も『浄化の日』の災厄からは逃れられなかった。生き延びた人々は自分を含めて単に運がよかっただけだ。しかも世界の人口の約半分が死んでしまい、『死霊使い』の需要は桁外れに上がった。その上三年前とは違い、もはやこの世界には『しげんせい四源精』の加護はない。土地は荒れ放題。『四源精』の加護があれば必要のなかった事だが、土を耕すのも自分達でやらなければならない。食料の自給はたちまち困難となり、餓死者が毎日絶えず出ている現在の状態では『死霊使い』の元を訪れる人々の数は天井知らずに伸びていく。しかも、普通は弱みにつけこんで法外な値を要求するものだから、そう簡単には死者を生き返らせることは出来ない。

「ですが月夜様のおかげで私も、息子もこうして楽しく暮らさせて頂いています」

主人はそれだけ言うと、他の客に向かって、『ヘイ、らっしゃい!』と景気よく叫ぶ。

ユートは何も言わずにその場を立ち去る。

そして、歩きながら、答えの出ない問いを自問自答する。

(……彼等の幸せを、自分が奪う権利などあるのか?)

そんなものはない。わかりきっていることだ。

だが、『死人返り』を行えば、施された者には生者と同じ様に食料が必要だ。

(……今を生きている者ですら餓死しているこの状況で、『死人返り』をして、限りのある食料をすでに一度は死んだ者に与えて良いのか?死者を一人生き返らせるごとに、一人の生者が死んでゆくのを黙認しろと?)

……出来る訳がない。