障子糊が如く

ネクロマンサー16

ネクロマンサー16

男の名は『羅刹』という。その名が世界の災厄『浄化の日』までには熟達した騎士として名を馳せていた事をセインは知っていたが、目の前の人物が羅刹だとは知らない。

「違うか、君達?」

その男はグラスを片手に、体重を椅子に掛けながら、三人に問い掛けた。

「違うっ!」

ユートは興奮気味に声を荒げ、立ち上がった。椅子は大きな音をたてながら倒れた。

普段は落ち着いているユートが叫ぶ事など滅多に無い。

他者を犠牲にして得るものほど醜いものはない。人の命を救う為に他者を犠牲にすることは仕方の無いことだとユートは認めたくなかった。

いや、彼等がやろうとしていることこそ、他者を犠牲にして得ようとするものだからこそ、ユートは羅刹の言葉を否定したのだ。

そうしなければ、自分の心を支えきれないからだ。

長年彼に連れ添ってきたサンは、そんなユートのぐらつく心情をいち早く悟っていた。

「では、どう違うと言うのか。今の世界は『浄化の日』以前の平和な世ではない。明日食べる食料も無く、それを巡って争いが起きる」

「その貴重な食料を……」

ユートはそこまで言いかけて、口をつぐんだ。

椅子を蹴倒した時点でかなりの注目を集めてしまったのに、これ以上注目されるような事は言えない。

「若き旅人よ、君の言いたい事はわかるが、ここでは言わない方がいい」

羅刹は一口だけグラスに入っていた水を口に含む。

「では、あんたはこの状況をどう思う?」

セインは腕組みをしながら、羅刹に尋ねた。

射るような視線で羅刹の瞳に目を向けるセイン。

「死者を蘇らせる事について、あんたはどう思っている?」

セインの口調は真剣そのものだ。ユートは慌てふためいた。

ここでそのような『死霊使い』の力を批判、疑問視するような言葉は禁句だ。