障子糊が如く

ネクロマンサー31

ネクロマンサー31

羅刹はアシュタルのこの言葉で何も言えなくなってしまった。

アシュタル個人は街の住人はどうなってもいい、と思っているのだが、月夜の投降を止めるよう説得するには街の住人の事を考えさせるのが最も効果的だ。だからアシュタルは街の住人を引き合いに出してそう月夜に告げたのだ。

「でもっ!戦争になったら街の人々が……!」

月夜はアシュタルの冷ややかな視線に眼を向ける。

「街の奴等が死ぬ、か?ではお前を差し出せば、軍が素直に引くと思うのか?人口調節を進めている軍が、住人を全く殺さないと思うのか?」

アシュタルは冷たく言い放つ。

「それに羅刹、お前がさっき言いかけた脱出という選択だが、それはほぼ不可能だ。砂漠の周りに軍が展開しているのを見てきた」

羅刹もその可能性は考慮していた。軍がこの街周辺の砂漠に展開していると、脱出はかなり難しくなる。

「方法は一つ。奴等の波状攻撃を防ぎ切ったあとでの強行脱出。これしかあるまい」

普通に考えるのであれば、夜明けを待って突破が基本だろうが、軍もそれは百も承知だろう。その証拠に街の周辺に軍が布陣している。この布陣を突破するのは難しい。

仮に軍が街に波状攻撃を掛けたならば、間違いなく包囲網に隙が出来る。普通に考えれば、軍はリスクの少ない月夜の暗殺を狙うであろうが、それはしないだろう。人口の調節の為にわざと大きな戦闘をさせようとするはずだ。軍は絶対に正面衝突を望んでいる。そこに光明がある。いくら軍が強大であっても、一つの街に投入出来る兵力は限られている。そして、この砂漠は非常に広大だ。波状攻撃の後に出来るその僅かな隙を全力で突破するしかない。確かに、これが一番可能性の高い脱出方法だろう。

しかし、正面衝突を軍が望むと言う事は、月夜が投降しても街の住人が人口調節の為に一定数殺される可能性がある。いや、その可能性は非常に高い。