障子糊が如く

ネクロマンサー9

ネクロマンサー9

それは間違いない。歯を食いしばり、呪力を放出し続ける聖。

「そして、俺達は二人共退路を失う…だから今の内に…」

「!」

アシュタルはその言葉を聞いて愕然とした。彼は自分達の為に犠牲になろうというのだ。

「馬鹿を言うなっ!聖っ!」

「アシュタル、お前の呪力ももう限界だろう?そんな状態で逃げ切れるのか?」

アシュタルは何も言えなかった。

結界が展開されているからこそ、この街は壊滅的な打撃を受けていないのだ。結界が消滅すれば、数多の火球は地表に直接降り注ぐ。そうなれば、呪力を限界近くまで消耗しているアシュタルに、安全な地域まで脱出する術はない。

「俺の呪力もそんなに長くは持たない。街には……娘と妻がいる。二人では逃げ切れまい……彼女達を頼む……」

「俺に……俺にお前を見捨てて行けと命令するのかっ?!」

聖は弱々しく頷き、

「そうだ……最初で最後の……命令だ……頼む……!」

アシュタルは自分が精霊であることをこれほど呪ったことは無かった。精霊は自分の主人には忠実に服従しなければならない。それが人間と精霊との契約だからだ。

命令であればどんな理不尽に思える事でも実行に移さなければならない。

…………

重い沈黙が場に漂う。

やりきれない思いを吐き出すかのように、

「おぉぉぉぉぉぉぉ!」

叫びながら、アシュタルは塔の階段を降り始めた。

飛来する火球は全て聖の結界が防いでくれた。

アシュタルは一度も塔の方角を振り向くことなく、月夜達のもとに走り続けた。